猫とダンス1
小さな頃に夢中になった児童文学。
アラビアンナイトに三銃士、イソップ物語等外国の数々のヒロイックファンタジーや定番もの。
ドキドキしながら図書館の隅で身体を緊張させ縮こまりながら読んでいた。
主人公の危機には一緒に緊張して、冒険には胸を高鳴らせる。
何時も僕の生活にはお話の主人公達が居てくれ、時には人生の迷いさえ立ち切ってくれた。
本は僕の一部になり、中高ではミステリーに嵌り、本好きな僕は自然に大学受験の際、文学部で有名な教授陣の居る大学を選択した。
大学生になりゼミを選択する様になるとより一層本漬けの毎日になったが、駒ヶ根鷹由紀(コマガネ タカユキ)は幼い頃と同じ様に今でも本を愛し、大学の外でも本を読み漁るという毎日だった。
「鷹由紀〜!!」
大学のゼミも終わり帰宅しようと校内を歩いていると、先程出て来たゼミ室から担当教諭が鷹由紀を大声で呼んでいる。振り返って見ると少しよろけたスーツを来た担当教授が大きな茶封筒をぶんぶんと振っていた。
「なんですか?教授」
「これ、お前がこの前探しているって言ってた資料、知り合いに言ってみたらあったらしくてなー、今送られてきたが俺には必要ない、受け取れー!」
そう言うとかなり分厚く重そうな本が入っているだろう封筒ををポーンと鷹由紀に向けて投げた。
「落とすなよ!」
「ええっ!!……わっわわっ!!!」
投げられた本は放物線を描き急速に地面へと向かって落ちてくる。若干投げた教諭がノーコン気味なのか、鷹由紀からはかなり離れた場所に落下しそうになっていた。
鷹由紀は慌てて走り出しその本に手を伸ばした。
多分、あれは前から探していた江戸時代の文献だ。古書街通いをしてもなかなか見つからず、題名も分らず、内容もざっくりした感じしか分らなかったので国立図書館で借りたくとも借りれなく困っていた所だった。
本は経年と共に紙製と言う性質上劣化は免れず、このまま鷹由紀がキャッチ出来ず床に落ちてしまえば貴重な本が破損してしまう。
それだけは阻止せねばと必死に走り込みスライディングして、その本をレスキューしようとし、封筒に掌が触れた時だった。
カチっと言う不自然な音と共に封筒から目が焼かれる様な閃光が走った。
「何っ!!!」
キャーと言う驚きの声が上がり、鷹由紀はその眩しさに目を閉じ咄嗟に腕でかばった。
するとその刹那、封筒が激しい音を立てて爆発したのを感じた。
経験した事のない轟音と爆風と熱さ。
封筒が爆発したのだ。
今流行りのテロなのか。
その問いに応えてくれる者はだれも居ない。
鷹由紀はほんの数秒の内に自分がテロに巻き込まれた事を感じ、そのまま意識を失った。

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