猫とダンス1
小さな頃に夢中になった児童文学。
アラビアンナイトに三銃士、イソップ物語等外国の数々のヒロイックファンタジーや定番もの。
ドキドキしながら図書館の隅で身体を緊張させ縮こまりながら読んでいた。
主人公の危機には一緒に緊張して、冒険には胸を高鳴らせる。
何時も僕の生活にはお話の主人公達が居てくれ、時には人生の迷いさえ立ち切ってくれた。
本は僕の一部になり、中高ではミステリーに嵌り、本好きな僕は自然に大学受験の際、文学部で有名な教授陣の居る大学を選択した。
大学生になりゼミを選択する様になるとより一層本漬けの毎日になったが、駒ヶ根鷹由紀(コマガネ タカユキ)は幼い頃と同じ様に今でも本を愛し、大学中でも外でも本を読み漁るという理想的な毎日を過ごしていた。



「鷹由紀〜!!」
大学のゼミも終わり帰宅しようと校内を歩いていると、先程出て来たゼミ室から担当教諭が鷹由紀を大声で呼んでいる。
振り返って見ると少しよろけたスーツを来た担当教授が大きな茶封筒をぶんぶんと振っていた。
「なんですか?教授」
鷹由紀が教授へ振り返り声を出すと、偶然廊下に居た通りすがりの女子達から黄色い声が上がった。
鷹由紀はこの大学では目立つ存在で、ハーフ特有の榛色の髪と整った顔、それに声優の様な滑舌の良さと艶っぽい声でミーハーな女の子達にちょっとした王子扱いされている。
この教授はそんな鷹由紀を度々からかう困った癖があって、黄色い声を上げた女子を見ると案の定にやりと歪んだ頬笑みを浮かべた。
良くない事を考えている印だ。
「これ、お前がこの前探しているって言ってた資料、知り合いに言ってみたらあったらしくてなー、今送られてきたが俺には必要ない、受け取れーコンチクショウめ!色男は死ねっ!!」
いきなりなハイテンションの後教授は分厚く重そうな本が入っているだろう封筒ををポーンと鷹由紀に向けて投げた。
「落とすなよ!借り物だからな!!」
「ええっ!!……わっわわっ!!!」
投げられた本は放物線を描き急速に地面へと向かって落ちてくる。若干投げた教授がノーコン気味なのか、鷹由紀からはかなり離れた場所に落下しそうになっていた。
「教授!おいたが過ぎますよ!!!」
鷹由紀は慌てて走り出しその本に手を伸ばした。
多分、あれは前から探していた江戸時代の文献だ。古書街通いをしてもなかなか見つからず、題名も分らず、内容もざっくりした感じしか分らなかったので国立図書館で借りたくとも借りれなく困っていた所だった。
本は経年と共に紙製と言う性質上劣化は免れず、このまま鷹由紀がキャッチ出来ず床に落ちてしまえば貴重な本が破損してしまう。
それだけは阻止せねばと必死に走り込みスライディングして、その本をレスキューしようとし、封筒に掌が触れた時だった。
カチっと言う不自然な音と共に封筒から目が焼かれる様な閃光が走った。
「なにっ?」
周囲からは悲鳴と驚きの声が上がり「逃げろっ!」と声が上がる。
閃光源に一番近い場所にいた鷹由紀は逃げる事は出来ず、ただその眩しさに目を閉じ咄嗟に腕で頭を庇う。
するとその刹那。
目の前の封筒が激しい音を立てて爆発したのを感じた。
鼓膜が破れそうな轟音と感じた事の無い熱風。
ダメだ、と本能的に感じる。
身体全体が一瞬ドーンと凄い衝撃を受けたかと思うと激しい痛みが瞬時に全身に駆け巡りそのままブラックアウトしてしまった。
テロなのか……?
最後の意識の中で感じたのは、テレビの中でしかないと思っていた出来事が自分の身に降りかかったのかと言う疑問だった。
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