猫とダンス2 12

「っ!!」
「ご、ごめん……驚かせてしまって」
鷹由紀はルルの姿を見ると硬直する。髪は相変わらず白いままで、まるで現の人では無く夢幻の存在の様に鷹由紀の目には映った。何時もならスッカリ安心して身を任せているはずの鷹由紀だが今はガチガチに固まり、微かに震えてさえいた。
「私から離れないで……鷹由紀」
懇願する様な声はルルの心情を表している。怯えているのは鷹由紀のはずなのに、ルルもまた鷹由紀自身に怯えているようだった。
「なんで逃げたの?私が…その…怖かった?それとも……」
許せなかったのか?
言葉に出せないのだろう。ただ、戸惑う様に鷹由紀を見つめると視線をそらした。
「……」
鷹由紀は答えないままだった。
ただ黙って、ルルから視線をそらしたままだ。我慢比べをするつもりが無いルルは再度尋ねる。
「ねぇ、どうして?……何か言って鷹由紀。何でもいいから」
「………う、嘘付いた、ルルさん嘘付いたでしょ?」
「嘘?」
「ココを知らないって、自分は普通の木こりだって……で、でも、ルルさんは僕が寝ている間にココにやって来て、髪の毛の色も変わって……もう訳わかんないけれど、結局僕を騙したんでしょ」
「騙すって…っ」
心外だと首を振るルルに鷹由紀は食ってかかる。
「こーゆー事を騙すって言うのっ!!!」
暴れ出した鷹由紀はルルの腕から抜け出すと、仁王立ちになり瞳は涙が溢れんばかりになっていた。慌てたようにルルは鷹由紀に告げる。
「騙してなんかいないっ!」
「嘘ばっかりだっ!」
「本当だよ、本来ならココは私しか入れない場所なんだ。鷹由紀だけじゃない、私以外は入る事も知る事も出来ない場所だから、敢えて言わなかった」
「どう言うこと??」
言っている意味が分らないと鷹由紀はまた嘘をつかれているのではと訝しがると、ルルは首を振った。
「ココは私の先祖が住んでいた成れの果て、この世界に死人を生み出した呪われた地、入れるのは血族のみの忘れられた土地の筈なんだ」
「……なにそれ??」
鷹由紀がじっとルルを見つめると辛そうに顔を顰めた。
「詳しく語るにはココでは……」
「僕はココがいい」
「なんで鷹由紀はココに入れたの?」
「知らないよ、普通に歩いてたら見つけただけだし、さっきも後を追ってココまで……」
「そこが理解できないんだ……なんで君がココに……」
戸惑う様に視線を泳がせ、決心したのか口をルルが開こうとすると、何かを見つけたようにパッと目を見開き視線を鋭くさせた。
「分った。話すよ、話す。だけれどココではなくやはり家に帰ってゆっくり話す」
「なんで僕は今ココで知りたい」
「ダメだ、早くココを出なくては」
仁王立ちだった鷹由紀返事も待たず手を取り胸に抱えた。
「ちょっとっ!!どこにっ!!まだ許してなっ」
「黙って!」
ルルの顔は焦っていた。
恐ろしい程の腕力で扉の前に積み上げられていた家具を投げる様にどかしていく、何時もと違って乱暴な手つきに鷹由紀は慌てた。
「ちょっと乱暴にしたら」
折角綺麗に残っているのだからと止めようとすると、
「来た!」
「…へっ?!」
その声に釣られる様に室内を見回すと、信じられない物が目に入った。
壊された天窓から、無数の死人がなだれ込んできたのだ。まるで流れ込むように落ちて来た死人達は床に重なりそして不気味に鷹由紀達に視線を向けケタケタと笑いだした。
ルルは最後に大きめのチェストをどかすと、扉から飛ぶように出た。
「鷹由紀暫く黙っていて」
コクリと頷くと、ルルは鷹由紀を抱き直し、信じられないほどの早さで廻廊を走り、この廃墟を抜けだした。