猫とダンス2 13

廃墟の出口は森への入り口付近の大きな洞穴だった。
そこから出るとスティンガが待機しており、ルルは鷹由紀をスティンガに乗せると尻を叩く。
「スティンガ、鷹由紀を家へ。今日は出すな」
コクリと頷くと、スティンガはルルを乗せないまま走り出してしまう。
鷹由紀はルルに手を伸ばすが、その手を取る事は無かった。
「ルルさんっ?!」
「心配しないで、家で待ってて!!」
ルルはそう鷹由紀に告げて微笑んだ。
スティンガは主人を置いて行く事に戸惑いは無い様で、あっと言う間に平原に出てしまいルルの姿はすっかり見えなくなってしまった。
家に到着すると、スティンガは自宅扉ギリギリに止まり鷹由紀に降りろと何度も促す。
背の高いスティンガから滑り落ちる様に下りると足をカツカツと早く家に入る様に促された。
「でもっ!!」
ルルが心配で再度平原に出ようとしたが、スティンガの大きな身体で遮られてしまいどうにも出来なかった。鷹由紀は仕方なく扉を開け部屋に入ったが、やはりルルの事が心配で何度も扉を開ける。が、その都度扉の前に陣取っているスティンガの眼光鋭い視線に押しやられスゴスゴと部屋に戻ったのだった。
仕方なく鷹由紀は部屋の中でルルを待つ事にした。直ぐに見つけられるよう窓際の椅子に座り、じっと外を見つめ鷹由紀はルルを待った。
分らない事ばかり、理解できない事ばかりが起きた所為で眠気は訪れる気配が無い鷹由紀は、水を飲む事も、着替える事もせず、息を殺す様にジッと窓の外を見つめ続けた。
ただひたすら待つこと数刻。
闇が陰り日の光が地平線の下から現れ空が紫色に染まり始めた頃、森の方から歩いてやってくる人影が見えた。
黒い一本の枯れ木の様な姿は紛れもなくルルだった。
鷹由紀は溜まらず立ち上がり外に出た。
スティンガが声を上げ、なんとか巨体をどけて外に出ようとする鷹由紀の髪を仕置きに食べよと口を開けた時、耳をくるるっと回した。
スティンガもまた主人であるルルの気配を感じ取ったのだ。仕方ないとばかりにゆっくりと巨体をどけると、鷹由紀はゴムまりの様に平原へと駆けだした。
「ルルさん!!ルルさん!!」
嘘付きと罵ったが、やはり心配だった。
駆ければ駆けるほど、しっかりと見えるその姿に溜まらず鷹由紀は両手を伸ばし飛び付いた。
「ごめんね、ごめんね」
待っている間心細かった。
この世で一人になってしまうのかとそう思うと恐怖に震えた。
「私の方こそごめん」
ルルは鷹由紀を支えきれずそのまま草原に倒れ込んでしまう。背負っていた本が平原に散乱し、そのいくつかが身体に当たったが、鷹由紀の身体をしっかりと抱き留める。
「心配した。本当に心配したんだ」
真剣な鷹由紀の視線がルルを捉えるが、ルルはきょとんとした瞳で鷹由紀を覗きこんだ。
「もう、怒ってないの?」
「怒ってる、怒ってるよ!!嘘付くし帰ってこないし!!ぼ、僕を一人にするつもりだったの?!!」
「そんなことない……君にどうやってあった事を話したらいいのか、少し調べて整理してただけっ」
「そんなの家に帰ってからでいいじゃないか!!」
その剣幕にルルは気圧されてしまう。
「本当にもう気にしていないの?」
「どう言う意味?」
「てっきり、無視されたり家に入れて貰えなかったりするものだと……」
「ちゃんと自分が悪いことしたって自覚あるんだ」
「一応……」
ばつの悪そうなルルの顔に、鷹由紀は溜息をついてそっぽを向いた。
「許してないけど…また嘘付いたら本当に許さないから」
「そんなつもりはもうないよ」
ふふっと何故か笑ったルルに鷹由紀は目を吊り上げる。
「ちょっと!!本当は誤魔化すつもりなんじゃっ!!」
胸倉をつかむ勢いの鷹由紀にルルは慌てて首を振った。
「いいや、そんなつもりはないよ。ただ、許して貰えたみたいで嬉しくて。私は既に鷹由紀無しでは生きていけないからね」
「……馬鹿」
蕩ける様な微笑みを浮かべて鷹由紀の頬を撫でるルルに、顔を真っ赤にさせた鷹由紀はルルの額を軽く叩き起き上がる。
「もう、帰ろう……」
ほら、手と差し伸べてくる手にルルは手を重ねた。