猫とダンス2 14

手を繋いで家に戻りお互い向き合う様に椅子に座ると、微妙な沈黙が流れた。
まだ本当に許していないと言いたいのに、寂しいから縋ってしまった自分に恥ずかしさが先にたつ。
ぎくしゃくとした動きになってしまう鷹由紀は、まず疲れているだろうルルの為にコップにジュースを出して手渡した。
「ありがとう」
ホッとした微笑みを浮かべるルルに鷹由紀は恥ずかしさもあってか、ぎくしゃくした動きのまま向いのテーブルに座り、自らもジュースを飲んだ。
お互いに長い沈黙が流れ、どちらから切り出そうかと迷っている雰囲気が漂っていた。
外はだんだんと白み始め、小鳥たちが騒がしく朝の訪れを告げ始める。
「なにから話そうか……」
カップを弄びながらルルが口火を切った。
苦笑いを浮かべて、決まりの悪そうな顔。
「で、なんなの?」
腕を組んで厳しい表情を作り聞く体制を作った鷹由紀の唇に徐にルルは口づけた。
「なっ!なにするのっ!!」
「なんとなくしたくなって……」
「色ボケかっ?!」
思わず出た言葉にルルはまんざらでもなさそうだった。
「あのさ、早く……」
「鷹由紀が入ったあそこは王族達の成れの果て、古い昔栄えていた都市の残骸なんだよ」
唐突に話し始めたルルに鷹由紀は思わず口をつぐんだ。
ルルの顔をじっと見ると、考えながら探りながら言葉を選んで話しているようだった。緊張しているのだろうか、神経質に指がリズムを刻む。
脈絡の無い行動も、ルルの心の動揺を表しているのかもしれないと鷹由紀は思い辺り、静かに話を聞く事にした。
「昔、鷹由紀がこの世界へ来るずっと前、この世界を揺るがす疫病が流行ったんだ」
「疫病」
「そう、最初は贅沢病と言われたよ、王族や貴族達、豪商達に出た病気でね、最初は微熱、それから高熱が出続けてやがて弱って死んでいく、当時の薬では治らずに、王族のみならず民衆達にも伝染し沢山の人が犠牲になった。特に王族や国を動かしている貴族達が倒れたのは大変な問題で、国が動かなくなると危惧した医師や薬師達が寝る間も惜しんで作りだした薬があるんだ。「王珠薬」。今もその薬の特効薬として流通している薬だ。当時の王族の一人、天才と言われたゼルーダという男が作り出した薬だ。そして死人の発端になってしまった薬なんだ」
「え?」
「出来あがった当初はまだ出来そこないだったらしい。まだ感染して初期段階しか治らなくてね。当時の王族や貴族は薬を投与しても大抵死んでいった。だが、その中で死なず助かった王族が居たんだ。今思うと彼はその病気に対して特別跳ね返せる力があったみたいでね、ゼルーダは彼の身体から体液を抜き取り生成し薬を完成させたんだ」
まるで現在の薬の開発の様だ。抗体を持つ人間を探し出し、ウイルスに対応出来る遺伝子や物質を見つけ出して新薬を作りだす。
それをこんなまだ原始的な生活をしている人達が行っている事に鷹由紀は驚きを隠せなかった。
「薬の効き目が上がり、数多くの人達が助かった。だが、その薬は魔の薬だったんだよ、最初に気が付いたのは事故にあった者の処置をした医師だった。どう考えても致死量に達する血液を流していたのに彼は生きながらえたんだよ。当時は奇跡として扱われた様だったが、そんな奇跡がそこかしこから聞こえて来たんだ」
「まさか…」
嫌な予感がした。
それこそ、派手なハリウッド映画の様な衝撃的で救いの無い悪夢の様な映画が鷹由紀の頭の中に思いだされる。
神妙な顔になった鷹由紀にルルは頷いた。
「そう不死さ。その薬を投与された人達が不死になっていた。当初は皆喜んだ。死ぬことが無いのだから。でもね、不死なだけだったんだよ」
「どういう意味?」
意味が分らず聞き返すと、ルルは切なそうに眉根を寄せる。
「死なないだけで肉体は滅びる…不死であるが不老ではない。死人達は当時薬を投与された人達が死ぬに死ねず肉体が滅びながらも生きながらえている薬害を受けた人達なんだ」
「?!」
「あの城は当時ゼルーダ一族が住んでいた城、死人となった人達が押し寄せ破壊された呪いの場所なんだよ……」