猫とダンス2 15

「じゃあ、あの白い人は?」
「当時ゼルーダー城に住んでいた一族とそれに仕えていた人々のなれの果て、そして私達木こりはゼルーダー一族の生き残りなんだ」
「そう、そう……なんだ……」
「死人達が生き続ける限りゼルーダー一族の者達もこの世に留まり続けている。白い人と鷹由紀が呼んでいる人達は私達の先祖の魂の姿。彼らは死人を助けるまでは天には登らず、己の魂を二つに分け、子孫である私達の中で生まれ変わり死人達を監視し、そして彼らを助ける術を探しているんだ」
壮大な話しだった。
気軽にルルは王族では無いのかと思っていたが、実際はとても大きな歴史の歯車に組み込まれ逃れられない運命を持った人だった。
「なんかゴメンなさい」
「なにが?」
改まって頭を下げる鷹由紀を不思議そうにルルが見つめた。
「なんか、いらんこと僕が掘り下げちゃって、ルルさんの事引っかき回しちゃったって感じがした」
「そっか……」
「もう、いい」
「もういいのかい?」
「うん、もう聞いちゃいけない気がするし……」
聞いたからと言って何が出来る訳でもないと分っている鷹由紀はそれ以上の詮索は辞めた。
ルルはそれを意外そうな顔つきをしたが、鷹由紀が眉根を寄せて辛そうな顔を見せているので、それ以上何も云わず、敢えて軽く頷く。
「そっか」
言葉に出せば出すほど落ち込んでしまうのか、俯いてしまう鷹由紀をルルは気遣い横にやってくると肩を抱いた。
「もう一度寝ようか?」
「うん」
「疲れたね、今度起きる時間は夕方になってしまうかもしれない」
「そうしたら夕飯食べて又寝る?」
「そうしよう、色々あり過ぎたから、偶にはそんな怠惰な生活も良いだろう」
「そうだね」
二人は笑いあい、額をこすりあった。
鷹由紀はルルに抱えられるようにベッドへと向かい、彼の胸元に縋りつくように懐に入った。
「おやすみ鷹由紀」
「おやすみなさいルルさん」
朝日が差す中、二人は静かに目を閉じた。


夢を見た。
あの部屋の夢だった。
埃も被っていない、朝日が差し込んだ室内。
綺麗な花が部屋に飾られ、硝子戸の外の美しい庭園が部屋を彩っていた。
部屋の中央。
テーブルセットには一人の青年が座り本を捲っている。
鷹由紀そっくりの青年だ。
口元に微笑みを浮かべている姿からはあの城の惨状等想像出来ない。綺麗なものだった。
テーブルの上には星屑が入ったグラスがあり、カランと氷の様な音を立てて溶けて飲みごろだ。
汗を書いたグラスをその青年が手に取ると一口飲む。
「美味しい」
思わず上がる声に、恥ずかしそうに一人笑っている所にこの部屋の扉が開いた。
「大丈夫かい?……」
名前が聞こえない。
だが、この部屋に来訪者が現れた様だ。
静かだった青年の表情が俄かに華やぐ。
「ん、問題ないよ。それより仕事はイイの?顔色が悪い……」
「仕事は少し休憩だ、貴方の顔が見たくなった」
青年の隣に座ったのは、あの広間に居た白い人。
ルルと同化したあの人だった。
青年の肩を抱き寄せると、彼は自然と頭を肩口によせ幸せそうに微笑む。
「どうした?」
「うん?甘えてる」
「そうか、じゃあ沢山甘えると良い」
幸せそうな二人。
見ているだけで幸せになれる、そんな二人だった。
暫く他愛の無い話しをしていると、ふと青年が白い人をじっと見つめる。
「今日なんでしょ……」
「ああ」
歯切れの悪い気乗りしない雰囲気だ。
その彼を青年は苦笑いする。
まるで子供を窘める様に、頭を撫で微笑む。
「大丈夫、心配しないで僕は大丈夫」
「すまない」
青年は首を振って、情けない表情の白い人を抱きしめた。折れそうな細い手、腕には無数の刺し後。
幸せそうだった雰囲気は一気に薄れ、二人からは追いつめられた雰囲気が漂っている。
青年は胸に縋りついた白い人を安心させるように何度も頭を撫でて呟く。
「貴方の役に立つんだもの、全然大丈夫だよ」
「本当かい?具合が悪そうだ、世の中の誰よりも貴方が大事だから、調子が悪い様なら直ぐに云って欲しい、即中止するから、本当に私が完璧なモノを作っていれば貴方がこんな目に合うこと等無いのに…」
その言葉に青年は首を振った。
「大丈夫だよ、僕こう見えても頑丈なんだから、それより今日の血が必要なんでしょ、早く取って貴方は皆を助ける薬を作ってあげて」
「すまないエルラシオン……」
「なんて顔してるの、僕は皆の役に立てて幸せ、貴方の役に立てて幸せ、ね、ほら、幸せでしょ、だから笑って、ルブラン」
綺麗に微笑む姿は本心を語っている様に見えた。
エルラシオンを抱くルブランの背中は微妙に震えており、この穏やかな光景がけして守られたモノでは無い事を語っていた。