猫とダンス2 6

大理石の様な綺麗な石には繊細な装飾が施されていた。
鷹由紀はしゃがんで埃を払うと、その一体が装飾されている石で覆い尽くされている事が分った。
鷹由紀は小さな瓦礫を避けると、椅子の様に積み上げそこに座った。
「ここ、なんなんだろう」
背中に背負っていた背負子を降ろすと、先程森で摘んだ果物を口にする。
爽やかな酸味が広がり、少し興奮していた頭が鎮まる気がした。
鷹由紀は考えた。
多分、どこかの王族の邸宅か城だと仮定すると、何故こんなにも荒廃してしまっているのだろうか。
表に出て来た床をぼんやりと見ると、その床に描かれている文様にピンと来た。
「これってもしかして家紋かな……?」
ベルサイユ宮殿等ではブルボン王朝の紋章であるユリの紋章がそこかしこにあると聞いた事があった鷹由紀はじっとその文様を見た。
見たことない花を抱えている鳥の姿の柄。
多分これが紋章だと思った鷹由紀はじっとそれを見つめた。
だが複雑すぎて覚えきれない。
どこかに持って帰れる物はないだろうかと鷹由紀は思い立った。
急いで残りの果物を食べ終えるとその辺りにある小さな石の破片を拾っては裏返した。
これでもない。
これでもないと探し続けていると、ついその場所が丈夫かどうかの確認をし忘れていたのだ。
座っていた場所より少し離れた場所に少し剥げた床を見つけ、身軽にその場所へジャンプしたのが間違いだった。
着地した途端、メリメリっと音が鳴ったかと思うと、鷹由紀がヤバイと思う間もなくその周辺の床がガラガラと崩れおちた。
「わぁぁあぁ!!!!」
嘘だろう。
建物の基礎の下。地下へと真っ逆さまに落ちて行ったのだ。


目が覚めたのは暗い空間だった。
「痛っっ!」
上から差す光は鷹由紀の身長の5倍程ある。
身体中痛むのでゆっくりと足や手、頭を動かしてみると奇跡的に怪我は無い様だ。
学生の頃習っていた柔道の受け身をきっと咄嗟に取ったのだろう。
今更ながら学校教育に感謝した。
所々激痛が走るが時間と共に和らいでいく。
流血した箇所も無い様で頭はふらつくが、なんとか立ち上がれそうだった。
「よっこいしょ」
フラフラとまるで生まれたばかりのバンビの様に心もとなげに立ち上がり落ちた場所を調べる事にした。
周りには誰も居ないのは分っていた。
声を上げても近くにルルが来ない限りは体力を消耗するだけなので、まずココに危険がないかどうか調べるのが先決だった。
鷹由紀はゆっくりと歩き足元を確かめながら進む。落ちた穴は結構な広さで、真っ暗な空間と思ったが薄闇程度で目が慣れてくると内部が見えるようになってきた。
「ココは……」
広間だった。
荒廃し、床や柱は欠け、そこかしこに瓦礫や以前この部屋にあった物が散乱しているが、ここがこの建物の広間だったと想像出来た。
何故なら部屋の上座と思える場所に数段の階段が付いた王座のを設える様な場所があり、そこには天井から緞帳の様な布が垂れ下がっている。
近寄ると緞帳は何者かに破られたのか下がびりびりになっており、この場所にあったであろう椅子の残骸が周りに壊れた物体となって散らかっていた。
金色のモールに、ブルーのベルベットの様な生地。
上を見てみると綺麗なドレープを描く布が幾重にも重なっていた。
垂れ下がっている布を何気なく鷹由紀が捲ると、金色の枠が出て来た。
「なに?」
よく見るとそれは額縁だった。
もしかしてこの建物の持ち主か、先祖の絵が掛けられているのかもしれないと捲ってみると、息を飲む。
「……っ」
人の背より大きな肖像画が現れた。
が、人が描かれているだろう肖像画は斜めに切り裂かれ、下の方は黒い染みがこびりついている。
鷹由紀は染みが何か触れてみると、凝固して固かった。
がその色と乾いた触感に覚えが有り、咄嗟にその絵画から離れた。
「血だ……」
ヤバイ場所に来てしまったと咄嗟に分った。
多分この建物は侵略か、強奪かされた跡地なのだろう。
もしかしてこの部屋をくまなく探せば人骨なども出てくるのかもしれない。
そう思うと一気に背中へ寒気が走り身体が緊張した。
早くこの場所から抜け出よう。
人がこの場所で大量に殺されたかもしれないと思うと、居ても経っても居られなかった。
兎に角日の当たる場所へと戻ると大きい声を出してみた。
「ルルさーん、スティンガァ!!!」
聞こえないのは分っていたが何度も叫んでみる。
ルルに聞こえなくともスティンガが鷹由紀の声を拾ってくれるかもしれないと臨みを掛けての大声だった。
もう数度叫んでみて、暫く辞め、もう一度叫んでみる。
何度か繰り返すと鷹由紀はその場にしゃがみこんだ。
体力を温存しなくてはいけないと思ったのだ。
「早く迎えに来てよぉ、マジ怖いし……」
ガタガタと震えそうな身体をなんとか抑えていると、不意に座っていた箇所がボコリと隆起した。
「なに?」
何事かと慌てて立ち上がると、そこだけではない、床がまるでモグラが出てくるかのように隆起するのだ。
鷹由紀はその光景を見た事があった。
「死人っ」