猫とダンス2 9

黙ってしまった鷹由紀の頭をルルは抱きしめる。
「不思議だね…、私は長年この森にやってきているけれど、鷹由紀みたいな体験をした事がない、けれど何か運命を感じずにはいられない展開、でもちょっと鷹由紀には荷が重すぎるかな」
「でしょ…僕にとっては負担って言うか、本当にもう無理っ!!」
死人が大量発生したあの現場を思い出し身体にブルリと震えが走った。白い人達も気になるがそれよりもまた死人達が沢山居る所に落とし込まれたどうしたらいいのだと言う不安が先走る。
「僕もう絶対に一人じゃ行動しないから!!」
「そうして頂けると助かります」
剥きになって大声を出した鷹由紀にルルは苦笑い交じりに頭を下げる。
「鷹由紀が来てから色々あったけれど、今回の件は私が追々調べておくよ、君が見た白い人達も気になるしね」
「宜しくお願い致します」
出来ればもう関わりたくないのか、鷹由紀は大人しく頭を下げるとそのまま大きな溜息をついて、ルルの身体に寄り掛かった。
「それと、鷹由紀が気にしていた服だけれど、考え過ぎだよ。置き場所が無いから天井の上に目立たない様に置いておいただけなんだ」
そう言って語られたのはなんとも鷹由紀の一人勘違いだったと納得させられざるおえない内容ばかりだった。
「木こりはね、一般人より少し王室に目を掛けて貰っていて、身分こそ庶民だけれど、年収で言ったら貴族とそこそこ一緒なんだ。国専用の傭兵みたいなものと言ったら良いかな。有事の際は木こりが国に全てを伝えて時には先頭に立って戦う。だから王族は木こり達を大切にしてくれる。あの梁の上にあった衣装は私が小さい頃からずっと両親に連れられて舞踏会に呼ばれて着ていた服達だよ、小さい子の舞踏会用の服は殆ど需要が無いから全てオーダーでね母親が凝ったって言うのもあるからかな、今の服より豪華だし綺麗なんだ」
話しに耳を傾けていた鷹由紀の顔色は徐々に赤くなり、終いに熟れた果物の様に良い色に染め上がると、そのまま俯いてしまった。
「さて、疑問は?」
「嘘はないんでしょ」
非難する様な小さな声は羞恥心からだ。
「これを信じて貰わないと私はあと何を言ったら良いのか分からないよ」
肩をひょいと上げたルルは、何がおかしいのかクスクス笑って俯いたままの鷹由紀の頭に口づけた。
「王子様じゃなくてゴメンね。木こりの私は嫌い?」
「そんなことない」
「じゃあ顔上げて、証明にキスしてくれる?」
「今は嫌」
「気が変わったらそれではキスしてね」
クスクス笑い続けているルルは、そう言って幸せそうに鷹由紀をぎゅっと抱きしめた。





その日の夜。
ルルは鷹由紀を寝かしつけた後に、箱の中から古い本を取り出した。
それは両親から受け継がれたこの地方に語り継がれる伝承がしたためられた本で、ルル自身幼いころに何度も両親から読み聞かせて貰った本だった。
その本を捲りあるページに辿り着くとルルは深い溜息をついた。
「まさかとは思うけれど、鷹由紀はもしや」
チラリと鷹由紀が寝ているベッドを見るとグッスリと眠っている様だ。今日は色々あったから多分朝まで目を覚まさないだろう。それを確認するとルルは急いで外へと出かけていった。
ルルが向かった先は昼に鷹由紀が辿り着いた瓦礫の山だった。
闇夜の中、ランタンを片手にルルは敷地内に入って行く。そしてキョロキョロとしながら注意深く一際大きな瓦礫の山に辿り着くと、鷹由紀が踏み抜いた床を見つけた。
「ここか……」
顔を顰め、そしてしゃがみ込む。穴の下は真っ暗で今は何があるか確認出来ないが、確実にここから落ちたのだろうとルルは確信を持った。
「鷹由紀は一体何者なんだ……??」
誰も居ない場所でルルはただ一人呟いた。