猫とダンス15

「な、なに?覚悟って…戸惑うよ…そんな事言われたら」
「もし、本当に嫌だったら、私の元から早く鷹由紀を手放そうと思うんだ」
「へっ?」
手放すってどういう事なのだろうか。
鷹由紀がポカンとすると、ルルは苦笑いを浮かべた。
まるで迷子になった子供の様に
「鷹由紀は知ってる?私が君を好きだってこと」
来た。
とうとう来た。
鷹由紀は知れずに手に力を入れ、ルルを凝視した。
まさかこのタイミングで切り出されるとは思っていなかった。
どう応えていいのか、鷹由紀は頭の中でぐるぐると最善の策を練り上げる。
だがその努力も必要なかった様だ。
「知っているって態度しているよね……それに答えも……」
「僕は、今応えなきゃいけない?」
「出来れば…このまま応えずに避けられたり、何もない様にされるのは私には耐えられないかもしれない…」
どうする。
どうしたらいい。
握る手に汗が滴る。
「出来れば僕はルルさんと仲良く居たい……でも…」
好きになれるかどうかなんてわからない。
突如言葉を詰まらせた鷹由紀の態度が正に答えだった。
ルルは笑った。
寂しそうに、そして皮肉げに一瞬だけ顔を歪ませた。心が痛かった。
どうしてもこの人を失いたくない。
鷹由紀は心の底から思っているだけれど、それと恋愛は違くて。
どうしたらいいのだろうか。
なんとかしなくちゃと言葉を探すけれど、適当な言葉が見つからない。
何を言ってもルルとの溝を作ってしまいそうだった。
ちゃんと分って無かった。
こうなってしまうのなら、曖昧なままキスとか全部我慢していればよかった。
後悔だけが残った。
「分ったよ……じゃあ、行こうか」
ルルは立ちあがって突然鷹由紀に手を伸ばした。
「なに?」
突然の行動に理解出来ず、鷹由紀は後ずさった。
「鷹由紀はリューザキさんの所へ行きなさい」
「えっ……なんで………」
「それを私に聞くの?」
「だって……、それって」
「捨てるってことかって事が聞きたいの?」
「うん」
「捨てるんじゃない、私が鷹由紀に捨てられるんだ」
「ち、違うよっ!!」
「今はね、でも何れこのままじゃ鷹由紀は私を嫌いになるだろう、一度告白してしまえば案外心は脆くてね、もしかしたら私は鷹由紀が嫌がる事も近い未来してしまうかもしれない、いやしてしまうだろう…なら、今離れた方が良い…」
「そんな…」
勝手だ…。
だがそこの言葉を鷹由紀が発する事は無かった。
呈よく利用したのは鷹由紀なのだから。
ルルの好意を利用してずっと居続ける為には、ルルの想いを受け入れなくてはいけないと分った以上、本当に彼の傍に居てはいけないのだ。
嫌だ。
しかたない。
でも嫌だ。
なんでルルノ心内を真剣に考えなかったのだろうか。
悔やんでも悔やみきれない。
鷹由紀もルルに嫌われたくなかった。
なんでだろう、お互い好きなのに、好きの方向が違うから別れなくちゃならないなんて。
酷いお伽噺みたいだ。
「今日これからリューザキさんの所に馬を走らせれば晩までには到着するから…それまでは嫌かもしれないけれど我慢してね」
何時もと同じ声でルルは申し訳なさそうに言う。
酷い事をしたのは鷹由紀なのに。
もう、納得しなきゃならないのだ。
ルルの気持ちに応えられないのだから。
鷹由紀はゆっくりと縦に首を振った。
「わかった…、嫌なんかじゃないよ、でもリューザキさん家に行く」
「よかった…」
心底ホッとした様なルルの言葉に鷹由紀の心は杭を打たれた様に胸が痛んだ。
「じゃあ、事は急げだ、早く家に帰って身支度しよう」
そう言ってルルは仕事道具を簡単に片付ける。
「ごめん、仕事邪魔して…」
「いいんだよ、こう言う事は早く分った方がいいから、逆に良かったかもしれない」
仕事道具をスティンガの背中に括りつけると、ルルは手早く騎乗し、鷹由紀に手を伸ばした。
鷹由紀はその手に掴まってスティンガに登ろうとすると、スティンガと目が合う。
本当にお前はそれでいいのかと尋ねられている様な瞳だった。
一瞬戸惑う。
だが、ルルの強引な力が鷹由紀を引き上げ、あっという間に騎乗の人となった。




※お話の都合上今回は短いです。
すみません。