猫とダンス22


星空を見上げていると、急に星々が瞬きだした。
まるでサーチライトの様にピカピカと光ったかと思うと、突如大きな瞬きをした星が天空に流れ出す。
「ふわぁぁ!!」
大きな星が太く長い尾っぽを付けながら空の果てへ消えて行く。
それが始まりだった。
一つ流れたかと思うと、2個、3個。
あっという間に数えられない程の流れ星が流れ始めた。
空に描き出される無数の線と煌めく星々。
流れ星の中にはボッと燃える音が聞こえて来そうな大きな物から、糸の様に細い流星痕を残す物まで多種多彩だった。
一番驚いたのが流れ星に音が有ると言う事。
最初は空耳かと思った。
だが、頻繁に聞こえてくる音に何度か耳を澄ましてみると、流れ星から音がするのが分った。
星が流れると「シュン」と音がする。
それが大量に流れる物だから、さざ波の音の様に、人々のざわめきの様に天空のそこかしこから聞こえ、その度に星が流れていた。
眼下からは歓声が上がっていた。
この時期を待ち遠しく思っている人々がランプを持って一斉に外へ飛び出したのだ。
子供の声や猛々しい男達の声が聞こえる。
道や広場、庭等の広い場所に先程は無かったランプの光がポツポツと現れていた。
「まるでお祭りみたいだ…」
思わず拍手して流れ星の饗宴を眺めていると、大きな流れ星の尾っぽから僅かながらフワフワと光が地上へと落ちて来た。
「雪?」
こんな時期に?と目を凝らして見てみるとそれはほのかに発光していた。
フワフワと落ちてくる物や、あっという間に目線の端に落ちて行く物等様々。
ピンときた。
これが「星屑」なのだ。
慌てて星屑集め用の瓶の蓋を開けると、天空に手を伸ばして落ちてくるのを待った。
そして周囲を見回してみると、そこかしこにほのかに光る星屑達が地上へ落ちて来ている。
「こーい!!」
星屑に叫んで、目を凝らしていると、一つの星屑が結構な早さで掌の中にぶつかる様に落ちて来た。「痛っ!」と思ったのも瞬間。
掌の中で「シュン」と泡がはじける様な音を出して掌にコロンと収まっていた。
「冷たい…」
ひんやりしたそれは、ドライアイスの様に煙を上げていた。
冷蔵庫に入ったアイスキャンディーの様な冷たさと言えば分って貰えるだろうか、金平糖のもっと尖った形をした星屑は自らを主張する様に相変わらず発光していた。
「ああ!いけない早く入れなくちゃ」
冷たい物体だ。溶けてしまうかもしれない。
慌てて瓶の中に星屑を入れようとすると、なんと既に一個の星屑が既に瓶の中に入っていた。
「もうお仲間がいるよ」
先客の星屑がいるのなら、この星屑も一人ぼっちにはなるまいと、何故か微笑ましい気持ちになった。
二個寄り添う様に星屑を瓶の中に入れてやると、また天空を見上げた。
ゆっくりとフワフワ降りてくる星屑もあれば、恐ろしい早さで地上に突き刺さる様に落ちてくる星屑もあって、結構スリリングだ。
俯いているとコツンと頭に当たったりもした。
これは気をつけなくてはと思いなおし、星屑に気を付けながら足場をもう一度整えた。
屋根の上に居るのだから、先程の使用人の忠告を守り、なるべく危険が少ない場所でラグからははみ出さない様に気を付けながら星狩りを楽しんだ。
頻繁に落ちてくる訳ではなく、落ちて来ても遠い場所に落ちたりする。
知らず知らずの内に声が上がったりとなかなか楽しい。
すっかり夢中になり、時間が経つのも忘れて星屑を集めているとあっという間に三分の一程瓶が埋まっていた。
瓶を振ると、カランと乾いた音がする。
淡く光る瓶はまるでランプの様に明るくて、鷹由紀は一旦星狩りを辞めるとバスケットに入ったサンドイッチとお茶を飲む事にした。
陶器のコルク栓を抜いてお茶をカップに注ぐと温かい湯気が上る。
「うわっ、あったかい!」
布に包まれた陶器の中に入ったお茶は全く冷めていなかった。
サンドイッチは冷めても美味しい、アボガドっぽいペーストが挟まれていた。
ブランケットを頭からすっぽり被って、温かいお茶を飲みつつサンドイッチを頬張る。
寒くて息も白くなるけれど、綺麗な景色を見ながらの食事とお茶は最高だった。
カップを持つと身体が意外と冷えているのが分った。
指先が温かさでジンワリと温まってきた。
ふと屋敷の庭を見るとランプを持った使用人らしき人達が星屑を集めているようだ。
既に星屑集め用の瓶が一杯になった人もいるらしく楽しそうな声が聞こえて来た。
街を見てみると、ランプの赤い光の他に淡い黄色の光が溢れている。
あの淡い光の一つ一つが、相手を思う気持ちに溢れているのだ。
そう思うと心が温かくなる。
人が幸せそうにしている姿が素直に楽しいと思う。
「癒し効果かも…」
クスリと笑って立ち上がった。
瓶を見るとまだ三分の二程瓶は空いたままだ。
さて、そろそろ星狩りを始めようかと、飲んでいたカップをバスケットに戻そうとすると、一際輝く星屑の光を庭に感じた。
「なに?」
誰か大きな星屑を拾って来たのだろうかと覗き込んだ。
すると、建物の下には大きな瓶を持ったルルが、馬のスティンガに騎乗したまま上を見上げていた。
「……ルルさん?!」