猫とダンス23


目を疑った。
だが、目を凝らして下を再度見てみると、そこにはルルが淡い光に照らされて鷹由紀を見上げていた。
思わず、屋根から身を乗り出しルルに手を伸ばした。
「危ないっ!そこに居て!」
ルルからの厳しい言葉に、ビクリと身体が竦む。
「後ろに下がって座って待ってて」
そう言うと、スティンガから降り、ルルは星屑厚めの瓶を持ったまま建物の下に消えて行った。建物の中から聞こえてくる足音に、どうやって迎い入れたらいいのかと戸惑う。
喜んでいいのか、それとも普通に接したらいいのかと。
ウロウロしてしまっていると、扉は突然に開かれルルが目の前に居た。
「鷹由紀…ゴメンね、寂しくて来てしまったよ」
背後から聞こえる声にピクリとも動けなくなってしまった。人が動く気配を背後に感じながらも、何もリアクションが取れず固まってしまう。
「鷹由紀…」
動けなくなってしまった身体にふんわりとルルの腕が回された。
暖かくて、力強い腕。
「会いたかった……ごめん」
「……何に対して、ごめん?」
「私がしっかりしてなくて…本当はもう会いたくないかもしれないけれど、堪えられなくて…会いに」
「だ、誰も会いたくないって言ってないじゃないかっ!」
「たかゆき…」
「僕は言ってない!!本当はずっと会いたかったけれど、ずっと我慢してた!ルルさんを受け入れられないから我儘言っちゃダメだって知ってた!!なのに、なんで来るの!!」
「ごめん…」
「だからっ!」
「ごめん、鷹由紀もう怒らないで……」
訳が分らなくて涙が自然と頬から流れて来た。感情の高ぶりにより流れ出た涙は鷹由紀の頬を伝い、ルルの腕を濡らした。
「……鷹由紀…」
ルルは更に鷹由紀を抱きこむと、鷹由紀の頬に流れている涙を唇で吸い取る。
ビクビクと身体が知らずに震えてしまうけれど、ルルはそれに臆することなく鷹由紀を抱き込み続けていた。
「鷹由紀に嫌われてもいい離れて暮らすくらいなら君に嫌われても私は…君を閉じ込めてでも一緒にいたい」
「…なにそれ、結局なんて言いたいの?」
素直になれなかった。
寂しかった、なんで早く来てくれなかったんだと、本当は言いたいのに言えるはずが無かった。
素直に慣れない自分に鷹由紀は更に涙をこぼしてしまう。
「鷹由紀は私の物になるって事だよ」
目の前で星屑がパチンと弾けた気がした。
「もう離さない、このままウチに連れて帰って家から出さない、鷹由紀の意見だってもう聞かない」
「馬鹿…」
「鷹由紀…私にキスを…」
そう言われて覗き込んでくる顔は、精悍で美しい変わらないルルの顔。
でも少し痩せて不安そうに瞳が揺れていた。
ああ、やっぱりダメだ。
もう、男同士とか気にしている方が馬鹿の様に思えて来た。
鷹由紀をこの世界に来て愛しんでくれたのは目の前の人で、自分を思って最愛と感じている人を逃がす事も出来る驚くほど心が優しい人。
あんなに人に甘えた事はあるだろうか、あんなに身を任せられた人が今までいただろうか。
いや居ない。
ルルだけなのだ。
「馬鹿だな……」
鷹由紀は一人そうごちて自ら背伸びをして不安げに揺れるルルの唇へ口づけた。
「大事にする」
ルルはそのまま鷹由紀の唇を塞いだ。力強い手で頭を押し付けられた口づけは息つく事も出来ない。唇を舐り、開かされあっという間に舌を絡め取られ、口内を舌でザラリと舐め上げられ身体が甘く震えてしまう。
長い口付け。
ルルは鷹由紀の唇を離す事を忘れたように何度も舐りしゃぶりつくす。
(どうしよう、ルルさんすげぇキス旨いんだけれど…)
翻弄されるだけされて、もう目の前がフラフラだった。
唇の周りなんて唾液だらけでぐちゃぐちゃだけれど、ルルに唇付近を触れられるとツキンと甘い痺れが走る。
「んっっ!」
足がフラフラになり、ルルに縋るとやっとルルは鷹由紀を解放してくれた。
呼吸を荒くしながらも焦点の合ってない鷹由紀の額に口づける。
「歩ける?」
そう尋ねられたが歩ける訳も無く、ルルが試しに少し手を緩めると、その場にストンと崩れ落ちてしまう。
寸での所でルルが鷹由紀を抱き救いあげた。
「危ないって事だね」
鷹由紀はその言葉に頷いた。
(あんなすごいキス受けて歩ける訳ありません…)
「これから抱いて行くけれどいい?」
恥ずかしくてわざとプイと顔を背け頷く。
「いいけど」
「それじゃあ、遠慮なく」
「あっ!ちょっと待って」
抱きあげられそうになり抵抗して手を伸ばした先には星屑入れの瓶が、そしていつの間にかに下に置かれていたルルの瓶を二つ抱える。
「もういい?」
「うん」
ルルを正視する事が出来ず大きな瓶二つの間に顔を隠してしまった。
この男にこれから抱かれるのだと思うと緊張してしまうし、やたらと恥ずかしいのだ。
ルルはそんな鷹由紀の態度を気にすることなく楽々と抱き上げ歩きだした。
流石は木こりだ。
緩やかな速度、階段を降りる揺れ、チラリとルルの顔を盗み見ると男一人と大きな瓶二抱えもしているのに涼しい顔をしている。
顔を見たら、急にもっと恥ずかしくなる。
こんな感情は初めてで、どうしたらいいのか分からない。
尻の方ももぞもぞするし、もしこれが家まで続くのならいっそここで犯ってくれてもいいと思い始めていた。