猫とダンス24


鷹由紀を気にしてかゆっくりと階段を降りると、建物の出口には先程屋根の上まで案内してくれた使用人二人が待っていた。
「よう御座いました」
全て知っているのか二人はニコニコ笑いながら鷹由紀が持っている星屑入れの瓶を受け取った。
「此方の沢山入っているのはルル様のですね」
「ええ」
「それでは此方は馬へ…、そして此方は鷹由紀様のですか?」
星屑が少ない瓶を指さされ頷くと
「丁度此方で星屑酒が出来ますから、頂いておきます」
しれっと当然の様に持っていかれてしまった鷹由紀の星屑瓶だったが、自然と取り返そうと言う気持ちにならなかった。
「賄賂って事かな?私が無断侵入した」
「そう言う事になります」
ルルが苦笑いしていると、使用人は笑った。
「えっ?!ルルさん無断侵入って?」
「鷹由紀に会いたくてスティンガーで門を超えたんだ」
「ど、どうやって?!」
門の高さは鷹由紀の身長の二倍以上ある、いくらなんでも無理だと思うのだが。
「スティンガは普通の馬じゃない、あいつなら崖だって本気を出せばひとっ飛びさ」
「……そうなんだ……」
流石は迫力のある馬だ。
実力は計り知れないと言う事なのだろう。
「どうしても今日鷹由紀に会いたかったんだ……怒るかい?」
「まさか……」
「よかった」
ホッとした様にルルは笑っていると、カインツがルルの星屑瓶を馬に取り付け引いてて帰って来た。
「用意が出来ました!」
「ありがとう…それでは鷹由紀を頂いて帰ります」
「リューザキ様が悲しまれますが、仕方ありません」
「…ありがとう」
ルルは二人に向けて頭を下げ、鷹由紀を抱えたまま馬に飛び乗った。
馬の脇にはなんと鷹由紀の荷物も既に括りつけてあった。驚いて使用人の二人を咄嗟に見ると二人はニコニコ笑っている。
「好きな方とご一緒の方が幸せですから…、落ち着いたらまたリューザキ様に会いに来て下さい、きっとお喜びになると思いますので」
「はい」
二人の行動や口ぶりから既にリューザキもヴェネディクトもルルがやってくる事を知っているようだった。
ルルは馬に乗ると、鷹由紀を自分のマントの中に抱き入れ、落馬しない様にぐっと腰に手を回すと、手綱を引いた。
「では、また」
「お気を付けて」
ルルの言葉に使用人二人が頭を下げると、スティンガが勢いよく走り出した。
星降る中、疾走する馬はあっという間に特別区を抜け、城下町を去る。
平原に出ると、星屑がひゅんひゅんと鷹由紀達の上や横をすぎて行った。
それは心なしか街に居る頃より凄くて、軽い豪雨の様だ。
「まずいな……」
ルルはスティンガを操りながらつぶやく。
「どうしたの?」
「今年は星屑の当たり年らしい…このままだとスティンガが沢山星屑を踏んで凍傷してしまうかもしれない」
「えっ!大変だよ」
「……鷹由紀、ちょっと寄り道していいかい?少しどこかで休んで様子を見たいんだけれど」
「勿論いいよ、それで」
「それでは少し走った先に街道の休憩所がある、そこで様子を見よう」
ルルはそう言うとスティンガに鞭を打って、その休憩所へと急いだ。
休憩所は本当に少し走った先にあった。
休憩所とは言っても建物では無く、椅子と屋根が用意されている東屋みたいなものだった。
「ここ?」
「想像と違った?」
「うーん」
「ここは死人が入ってこない様な呪いが掛かっている場所でね、意外と安全なんだ、馬を止める場所にも屋根があるからね、少しの間だから我慢して」
「う、うん」
スティンガは既に馬止めの場所を分っているらしく、自ら歩いて馬止めの場所に進んでいった。
ルルは鷹由紀を一旦下に降ろすと、スティンガを馬止めの木に繋ぎ、4本の足を丁寧にチェックし始めていた。
鷹由紀はする事も無いので、取敢えず東屋に入ってみる。
東屋は六角形の建物で、壁際には大きめの作りつけの石造りの椅子が並んでいた。
中には誰も居ない、鷹由紀はそんな事にホッとしながら、石の椅子に座った。
建物の中央にはタキギが出来る場所があり、寒い日はここに火を焚いて暖を取るようだった。
「鷹由紀?」
ルルに呼ばれて振り向くと、スティンガに取り付けてあった荷物から大きな毛布を持ってきた様だった。
「スティンガ大丈夫でした?」
「うん、まだだ丈夫だったみたい、丁度飼い葉があったから念の為に敷いておいたよ」
「そうですか…何でもない様で良かった」
「まぁ私達はちょっと困った事になったかもしれないけれどね、石の椅子冷たいでしょ」
「若干…」
苦い顔をした鷹由紀にルルは笑うと、一旦鷹由紀を立たせて座る部分に毛布を敷く。
「これでお尻ちょっとはマシになるから、火焚く?」
「いいです……星屑見てみたいかも…折角だから」
そう言って座りながら外に目をやった。
星屑は相変わらず降り続けている。
草原には遮るものが何もない。
所々星屑が積もっている場所もあり、まるでやんわりと光る雪の様に見えた。
「結構ロマンチックだから…」
「そうだね、じゃあ二人で温めあおうか」
ルルはそう言って鷹由紀の隣に自然と座り肩を抱いた。マントが鷹由紀の身体に掛けられ自然と寄り添う姿になる。
温かい身体とルルの息使いに鷹由紀はカッと身体が熱くなった。
(どうしよう…すっかり急な展開に抱いて欲しいなんて気持ちふっとんでたんだけれど、こんなんじゃ意識しちゃうよ…)
メロメロになっていた先程の自分を思い出すと、どうもジッとはしていられない。
星屑観察をしようかなと思っていた気持ちもすっかりどうでもよくなってしまった。
今ルルはどんな気持ちなのだろうと、チラリと横を見てみると、どうしたの?とルルは普通に尋ねてくる。
(あー、僕だけかっ!!!)
再度盛り上がっているのは自分だけだと思うと猛烈に恥ずかしかった。
頭を抱えてうーんと唸っていると、突如ルルが笑いだす。
「な、なんですか!」
少しカチンときて怒鳴ってしまうと。
「ごめん、嘘……私もですよ…」
ルルはそう言うと、椅子の上に鷹由紀を押し倒したのだった。
「えっ……えっ、えっ??」
「……あのさ…鷹由紀……ここでもいい?」
「えっ?!」
(ええええーーーーー!!!)