君を我寵愛せし 10

「ブノワ開けてくれ!!」
部屋に戻り事の顛末を侍女のゾエとアメリに話すと怒り心頭。
私達の坊ちゃまを〜と言うことになり、クレマン公爵は僕の部屋の出入り禁止とされた。
僕はもう気にしてないから入れて上げても良いのでは?と思うのだけれど、それでは両性であるにもかかわらず無理やり嫁がされた家が軽んじられるとのことだった。
「僕は別にいいんだよ」
「ダメです!!」
ゾエは鬼の様な形相で僕を叱ると、しつこく扉を叩くクレマン公爵の元へと向かった。
「お引き取り下さい、ブノワ様はお休み中で御座います」
「ブノワに会いたい、会わせてくれ」
「ですからお休み中と申し上げております、お引き取り下さい」
「どけっ!!」
「どきません!!」
激しい押し問答になっている事に僕はドキドキしてしまって寝室へと逃げ込んだ。
すごい喧嘩になってしまっている。ゾエの怒鳴り声など久し振りに聞くが相変わらず怖くて、僕はそうそうにベッドの中に逃げ込んだ。
布団の奥深くに潜り込み様子を伺っていると、ガタガタと揉み合う音と一際高い怒鳴り声が響いたかと思うと、カツカツと言う足音が近づき僕のベッドルームの扉が力任せに開けられた。
「ブノワっ!!!」
クレマン公爵が部屋にやってきたのだ。離れていても分るその怒気に僕は顔を出す勇気が無かった。
頭まですっかり布団を掛けていた僕は身を竦ませてしまう。
身体の揺らぎに気が付いたのかクレマン公爵がそっと僕を布団の上に覆いかぶさって来た。
「顔を見せておくれ、ブノワ……」
怖かったけれど、このままじゃいけないと思った僕はおずおずと目元まで出す。
布団の端がクレマン公爵の手に取られたかと思うと、僕を守ってくれる物はあっと言う間に剥ぎ取られてしまう。
僕は自然とクレマン公爵に圧し掛かられている恰好になっていた。
「こ、公爵様……??」
「クレマンだブノワ」
いつもと違う雰囲気。
顔を出した途端ガッチリと頬を掴まれ無理やり視線を合わせられて確信する恐怖を感じてしまう鋭い眼差し。
「クレマンだ」
「ク、クレマン…様……」
二度囁かれ僕がおずおずと呟くと、漸く納得してくれた様だったが、クレマン公爵の鋭い視線は変わらなかった。
何をしてしまったのだろうか。
部屋に入れなかった事が原因なのかと不安ばかりが胸の中に渦巻く。
「あの……」
勇気を持って尋ねようとするがそれは直ぐに遮られてしまう。
「ブノワ何故先程は私から離れた?」
アンヌとクレマン公爵の件だと直ぐに分った。
「アンヌ様がクレマン様を必要としていらっしゃったので…僕は遠慮させて頂いたのですが」
「余計なことだ」
「…え?」
「君の自由にしてよいと言ったが、私が必要な時は傍に居なさい、私が呼んだら直ぐにやって来なさい」
「それがクレマン様の望み?」
「ああ、そうだそれが妻の仕事だ、分るか?」
「ですが、彼女は僕が傍に居るのを嫌がったので……」
「お前にとって、誰が主人だ?」
ひっと息が詰まる。ゆっくりと手が首に周り僕の首をゆっくりと絞め上げられ、徐々に息が上がった。
「く、苦しいっ……」
「誰だい?ブノワ?」
優しい微笑みを浮かべるが、手は締め付けを厳しくする一方だった。
怖くて全身が震えた。
「ク……クレマン様です……」
舌が痺れ、喉がえずいた。
早く逃れたくて、知らぬ間に目には涙が浮かび上がった僕をクレマン公爵は優しく目じりを拭ってくれる。
「よく答えてくれたね」
怯えている僕を慰める様に撫でてくれるが依然と片手は首に回ったままだ。
「アニェスは可愛い女性だった、ブノワもアニェスの様に可愛く私を慕って愛しておくれ」
そっと額に口付を送られるが、僕にとって今はクレマン公爵から与えられる何もかもが恐怖の対象だ。
何を間違えたのだろうか。
震える身体が止まらない。
「は、はい……」
精一杯の力を出して頷くと、クレマン公爵は嬉しそうに微笑んだ。
「イイ子だね、ブノワそれでこそ私の妻だ。アンヌには仕置きをするから安心しなさい、私が一番大切なのはブノワ君だ、あの女はブノワの足元にも及ばぬが、だが子を産む器が必要な立場の私を理解しておくれ……」
うっとりと微笑んだ顔はまるで悪魔の顔の様だった。